薬剤師コラム vol.1
医療用医薬品の流通改善へ課題解決に向けた川上VS川下の行方は?

 薬価改定が事実上の毎年改定となって何回目だろうか?2018年から始まり、今年度で5回目(2019年改定も含めて)となる。薬局において、医療用医薬品の卸との価格交渉(仕入交渉)は時間と労力がかかる。本来であれば、薬局の未来像を描き、患者や地域住民の方へ医療貢献する準備を進めたいところだ。

変わる価格交渉の戦い

 思い起こせば2014年からは未妥結減算のペナルティが課せられる調剤報酬改定が始まった。9月末までの妥結率が50%を超えなければ基本料が大幅に下げられる。それまではじっくり時間をかけて、次回調剤報酬改定まで交渉をしていた保険薬局も多い。この時から川上と川下の戦い方は大きく変化した。言うまでもない、川上とは製薬会社、川下とは保険薬局のことだ。

 このペナルティ制度が課せられてからは時間との勝負となった。よくよく考えてみるとおかしなことに気付く。そもそも4月から新しい薬価での取引が始まっているのに、その時点で仕入価格が契約されないで薬局には毎日のように医療用医薬品が卸から納品されていく。その額は小規模チェーンでも毎月数千万円は下らないことが多い。家を一軒建てる時、契約なしで工事を開始するだろうか?もしそのようなことをしたら、価格は知らずに上昇する可能性がある。

 しかし、薬局では3月31日までに価格交渉が成立することは100%ない。何故なら、製薬会社から提示される仕切価で薬局へ納品することは難しいため、どうしても一時売差というものがマイナスとなるからだ。そのため、卸は割戻(リベート)やアローアンスがどの程度になるか、わからないうちに妥結はできない。問題点はそれ以外にもある。

 新しい薬価が国から発表されるのは3月初めのため、4月の新薬価までに交渉すら開始するのも難しいという物理的なスケジュールもある。前年9月までに新薬価が決まり、6か月間かけて妥結へ向けた交渉を行うというのがあるべき姿と思う。しかし、薬価調査は前年10月のため、健全な価格交渉は実現不可能ということだ。全く持って不思議な業界慣習が存在している。

苦悩する3者

 では川上と川下の戦いの勝者はどちらなのか?経常利益率から判断するとすれば、川上である製薬会社に軍配は上がる。もちろん、開発に莫大な費用がかかるから一概に経常利益率だけで判断することはできない。ただし、いくつか調剤側・診療側からこれまでの製薬会社へ意見が出されるとしたら、以下の点が挙げられるだろう。

 日本の製薬会社は世の中に革新的な医薬品をこれまでどの程度生み出したのだろうか?ほとんどは改良型の医薬品の開発がメインだ。また日々の情報提供は医療従事者へ納得される活動だろうか?仕切価を適正な水準にすることなく、川中の卸を通じて交渉させればよいことになる。川下側のみペナルティが課せられ、川上側へペナルティが課せられていないことは2022年6月29日開催の流改懇(医療用医薬品の流通改善に関する懇談会)でも診療側から強い反発があった。また1社流通品目に関しては事実上価格交渉ができないとの意見も複数の診療側からあった。今のところ間違いなく、勝者である。とはいうものの、毎年薬価改定による薬価引下げ、原価率の高騰、流通コストの上昇もあり、過去のような余裕はなくなってきている。外資企業の資本に太刀打ちできる健全な財務体質は維持し続けなければならない。それでは川中の医薬品卸は勝者、敗者のどちらであるか?

 設備投資や日々の流通コストの削減で板挟みになりながらも何とか利益を出している。決して満足な利益とは言い難いのは理解できる。一方で、利益率が2%あったとしたらどのようになるのだろうか。おそらく流通大手企業が参入してくる可能性がある。そのように考えると医薬品卸にとっては勝ち負けつかない現状+α程度の利益をあげることが勝ちと言えるだろう。

 そして川下である保険薬局はどうだろうか?調剤報酬だけで黒字になっている薬局はほとんどないだろう。つまり、本来業務だけでは黒字化しないビジネス構造になっている。毎年薬価が改定されれば3月31日時点の医薬品在庫は新薬価となり、自動的に資産が減少する。更に2年に一度の調剤報酬改定があり、中長期の経営戦略が立てにくい。常に修正が求められる。薬薬連携など地域医療の中で薬剤師の果たす役割は期待されているが、「モノ」から「ヒト」への大きな投資判断が必要となる。詳しく書かなくても前述の内容から判断できると思うが、川下は間違いなく不利な交渉条件だ。但し、川上から川下までの3者にとってあまりメリットは存在しない。つまり現状の仕組みであるならば中期的には3者とも敗者となる可能性が極めて高い。ではなぜ、そのような事態に陥っているのだろうか?

簡単には進まない単品単価契約、医薬品の価値とは

 国は価格の早期妥結とともに単品価格契約を推進している。現状、単品価格取引とは名ばかりの単品総価取引がほぼ限界の取引と思われる。未だ総価取引の関係を維持せざるを得ない薬局も存在するだろう。単品価格契約を推し進めるうえでネックになっていることは2つある。

 1つは医薬品卸の営業人員の問題である。1営業あたりの担当店舗数は70店舗前後と思われる。70店舗全てに単品単価交渉をすることは時間的にも物理的にも厳しい。また薬局側にも単品単価を提示されたとしても、妥結にいたる判断するためのシステムがあまり存在していないことだ。そして2つ目として、単品単価契約をするということは、医薬品単品ごとに価値を決め、価格を決めるということ。それでは医薬品の価値は何によって決まるのだろうか?

 ある人は斬新な医薬品のみが値する。別の方は、ジェネリックの存在しない医薬品のみ。そして薬局側は医薬品の原価も知らされていない。もっと違うベクトルの価値判断も存在するだろう。数兆円規模の卸と個人経営薬局ではあまりにも置かれている立場に違いがある。価格交渉の土俵に立てない薬局も存在しているようだ。

 医療用医薬品の流通改善の取り組みを行うにあたり、まずは流改懇で単品単価契約を促進する上で「医薬品の価値」とは何なのか?その上で製薬会社が提示する仕切価が適正なのかも十分議論されることに期待したい。そして個人薬局含め、医薬品の価値に基づく単品単価取引が成立するようなソリューションの普及・促進がなければ、真の単品単価契約はいつまで経っても成立しないだろう。

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