薬局・薬剤師が拓く 地域共生社会への扉

                         ━━━ 鈴木 順子   

                ━━━ 鈴木 順子   

 「患者のための薬局ビジョン」(平成27年)は、いわゆる保険調剤埋没型=既存の医薬分業概念に疑問を持たない薬局のありかたに対する鋭い批判を込め、私たちに意識変容・行動変容・体制変容を迫りました。その根底に、超高齢・人口減少といった衰退に向かうと見える我が国の社会構造に対する危機意識と新たなコミュニティ構築にむけた模索(地域包括ケア体制)があることは「薬局ビジョン作成の趣旨」が示すところです。

 このビジョンに基づき進められてきた薬機法等の法改正は大詰めを迎え、薬局の定義、機能的分化、対人業務の深化など薬局のありかたを根底から再整備する政策事業が急ピッチで進められています。法で求められることを一つひとつ満足するのは必ずしも容易ではなく、薬局、薬剤師それぞれにとって大変な消耗を伴うことは明らかであり、単に法に指示されることをやる(Do)のみ、またそれによる利益の追求のみでは、薬局の地域におけるステータス及び社会的生産性の確立は不可能であり、薬剤師は単なるブラックな作業者に陥る危険すらあります。

 ここで意味を持ってくるのが、あまり声高に語られない「薬局のガバナンス」であろうと思います。薬局は、地域の公衆衛生の最前線に立つ社会的責任を持ち、その責任の下で持てる機能をフルに発揮すべきだ、というのが「薬局のガバナンス強化」の背景となる考え方です。すなわち、薬局の貢献は単なる数値目標の達成(Do)のレベルを超えて、最終的受益者である地域住民に対してどのような効果を付与し得るかで測られるということになります。

 このような視点で薬局の経営を考えた場合、薬局は自らの地域貢献ビジョンを明らかにし、薬局全体としてそのビジョンを共有でき、それに基づいて各薬剤師が自分の役割と働き方を考察工夫し、薬局はそれらの考察工夫を活かすためのあらゆる援助を行う必要があります。いわゆる数値目標それ自体は、これまでのPDCAサイクル的な考え方で達成できるかもしれませんが、最終受益者である地域住民に対する効果という点では、各薬剤師の考察と工夫の集積交換協働がなければ次のサイクルにはつながり得ないし、効果の拡大深化も図り得ません。更にその上で、地域におけるほかのリソース(薬局、医療機関、その他の共助的機関)と互恵関係を確立し運用していくことが、地域の保健衛生水準を高め、1人ひとりの住民から地域全体に至る安全安心な生活体系の構築に益することになるでしょう。

 全国およそ6万軒を数える薬局、コミュニティの最前線に位置する共助機関は、今や地域共生社会の扉を拓くことのできる旗手として絶対無二の位置を占める機会を得たのであり、その豊かな実現のためにどのような工夫が必要・可能かを共に考えていきましょう。

鈴木 順子(すずき じゅんこ)

一般社団法人 地域医療薬学研究会 代表理事

社会人を経て、1990年北里大学薬学部入学、同大卒業
2008年同大社会薬学部教授、2018年より同大名誉教授

鈴木先生からのコメント:
北里大学在学中から、地域医療・在宅医療に関心を持ち、薬局・薬剤師の参画について考えてきました。現在は大学での講義を受け持つかたわら、現場で汗かく医療・介護従事者とともに、一社)地域医療薬学研究会(https://www.sscp.or.jp)を立ち上げ、経験と課題を皆で共有しつつ、よりよき実践者を育成するために一般市民の力を借りながら活動しています。

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