薬剤師コラム Vol.6
amazonの調剤分野へ日本進出をどのように考えるか

 最近、薬局業界でアマゾンの調剤分野への進出が話題となっています。まだ正式な発表もありませんが、様々な憶測を呼び、業界紙を賑わせています。私も薬局経営に携わっていたものとして、決して他人事とは考えてはおりません。正直な感想ですが、少し騒ぎすぎているようにも思えます。様々な方法があるとは思いますが、日本人は「安心」「安全」を何よりも優先に考えます。特に調剤された薬剤には「顔が見えること」「高品質」を求めます。つまり患者さんの立場になって考えれば、重要なことは質の良い医療の提供を受けられることです。

アマゾンは調剤を営む薬局を開設できるのでしょうか

 アマゾンが調剤分野での事業を立ち上げる場合、いくつかの方向性が想定されます。1つはアマゾンが薬局を開設し、受付・調剤・服薬指導・配送までを全て自社で実施する方法、もう1つは他社薬局と協力しながら運営していく方法です。

 まず1つ目の自社完結方式での薬局の運営はできるのでしょうか?結論から述べますと「難しい」と私は考えています。理由はアマゾンが得意とする生業では医療分野での実店舗を持つことは考えにくいこと、そして優秀な薬剤師をたくさん集める必要もあるからです。

 調剤薬局への異業種参入が成功したのはドラックストアのみではないでしょうか。そのドラッグストアでさえも参入障壁は高いものでした。調剤薬局とドラックストアでは、元々文化も業務内容が違うことが大きな要因でした。薬剤師は専門性が高い職業であり、薬剤師自身もそのことを自負しています。そのため専門分野以外の業務も薬剤師に頼ることはハードルが高いものでした。つまり調剤薬局は医療に特化した分野を主な生業とし、ドラッグストアは医薬品以外の生活雑貨や化粧品等、薬剤師の専門外の商品も取り扱いしているためです。そのため、ドラッグストアは薬剤師の待遇、教育を充実させるなど、薬剤師にとって魅力ある環境を整備してきました。

 しかしながら、急拡大する店舗数に追いつくことはできませんでした。追い風となったのは、度重なる厳しい調剤報酬改定への対応や、患者の薬局に対する意識変化でした。調剤だけでは生き残りが厳しいと感じ、店舗規模を活かした独自の付加価値や、OTCや健康食品も販売しているドラッグストアこそが生き残れる薬局であるといった考え方も生まれました。

 さて、今の業界の潮流はというと、国がチーム医療における薬剤師の役割や取り組みに期待を示し、在宅医療へ参加している薬局に調剤報酬で手厚く評価しています。そのような環境下でアマゾンの薬局が自社完結できるとは想像しがたいと考えています。さらに外資系であるアマゾンが日本文化を理解したうえで薬剤師を集め、人材を定着化させる必要もあります。薬剤師を集められなければ、アマゾンが得意とする生業だけのノウハウで薬局を開設し、拡大するという事業戦略は成り立ちづらいと予想します。かなりの時間をかけてノウハウの蓄積も必要となるでしょう。しかし、M&Aもある時代ですから10年後はわかりませんが。

 一方、規制改革推進会議で議論されている調剤の外部委託が可能となった場合、アマゾンが調剤を営む薬局を開設する可能性は出てきます。但し、外部委託のルールにかなり左右されながらの運営となるでしょう。その場合もアマゾンが薬剤師をどの程度確保できるかがキーポイントになると思います。つまりアマゾンが調剤を営む薬局を開設することは、電子処方箋の運用が開始されたとしても、大きく展開することはなさそうだということです。

 これまでは、アマゾンが調剤を営む薬局を開設できるのか、についてお話をしてまいりました。

想定されるアマゾンの調剤ビジネス

 それでは一番考えられる方法とはどのようなものでしょうか?アマゾンのプラットフォームに薬局が参加して、薬局は処方箋を受け取るサービスとアマゾンの配送、一部負担金の決済システムを利用することで、参加した薬局はサービス利用料をアマゾンへ支払うというスキームです。

 この仮説がおおよそ正しかったとして、薬局経営者の方はアマゾンのプラットフォームに参加することで、利用料をどれくらい支払う必要があるかは気になるところです。正直、全く検討もつきません。令和2年度の処方箋1枚あたりの平均技術料は2,467円です。薬局の営業利益を2%とした場合、500円、1,000円といった金額を支払うことができるでしょうか?調剤報酬、薬価は国で決められており、税金が使用されています。製薬メーカーは創薬し、卸は医療機関へ薬を安定供給してくれます。

 そして医療従事者である薬剤師(薬局)が調剤を行います。光熱費や原材料費が高騰しても、調剤報酬や薬価は小売店と違って値上げすることができません。新たなプラットフォームを利用するための費用も含まれていません。医療は日々進歩し、医療従事者は新しい知識や技術の取得にも費用がかかります。

 また薬局は患者さんに対する本来サービスを充実させるために利益を使う必要もあります。プラットフォームの提供は利便性の向上には貢献をするかもしれません。医療サービスの本質ではない部分に支払う対価を薬局経営者は慎重に判断する必要があると思います。

医療の本質は「患者さんに寄り添う」を大切にすることです

 地域包括ケアシステムの中で、かかりつけ薬局が服薬情報の一元的・継続的な把握や在宅での対応を含む薬学的管理・指導などの機能を果たす、地域で暮らす患者本位の 医薬分業の実現に取り組みへ向けて、2015年10月、厚生労働省は医薬分業の原点に立ち返り、現在の薬局を患者本位のかかりつけ薬局に再編するため、「患者のための薬局ビジョン」を策定しました。

 全ての薬局をかかりつけ薬局として、日常生活圏でのかかりつけ機能の発揮を目指しています。つまり国が目指すべき方向と違う事は、これまでの調剤報酬改定を振り返ってみても、調剤報酬では評価されなくなるということです。例えば敷地内薬局がそのような事例にあたります。このように考えると短期的には何らかの変化や影響を受けますが、中期的に考えれば、あまり大きく心配することはなさそうというのが私の考えです。

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